太平洋戦争時の元陸軍の参謀、辻正信氏に関する評伝です。
【本書の紹介文の引用】
元陸軍参謀が最後に企てた“作戦”とは？
1961年（昭和36年）4月4日、元陸軍参謀にして参議院議員の辻政信は、羽田空港から東南アジア視察のため単身、飛び立った。実はその出発直前、数々の「異変」が確認されていた。たとえば、辻の次男・毅氏はこう証言する。
〈父はタラップに4回出てきたんです、機内に入ってから。あり得ないことです……〉
その後の足取りは杳として知れず、8年後に「死亡宣告」が出された。
伝説の作戦参謀は、いったい何をしようとしていたのか――。
その生涯は、まさに波瀾に満ちている。
苦学の末、士官学校を首席で卒業、陸大で恩賜の軍刀を下賜された。
初陣の第1次上海事変での武勇が報じられ、一躍、時の人となるが、
作戦を主導したノモンハン事件で多数の犠牲者を出し大損害を蒙る。
太平洋戦争緒戦マレー作戦で名を上げ「作戦の神様」と称されるが、
シンガポール攻略後の華僑虐殺問題やフィリピン戦線での捕虜殺害、
ガダルカナル島奪還作戦の失敗などにより、その勇名は地に墜ちる。
タイ・バンコクで玉音放送を聞いた後、潜行生活に入ることを決意、
ラオス、ベトナムを経由して中国に渡り、極秘裏に日本へ帰国する。
戦犯指定解除後、『潜行三千里』など手記が次々とベストセラーに。
勢いに乗って衆院選でトップ当選、さらに参院選で全国3位となるも
その任期中に、内戦下の東南アジアへと向かい、消息を絶った――。
辻政信の主な評伝が刊行されたのは1980年代までだった。以来、30年以上の月日が流れている。本書は、戦前・戦中のみならず、戦後の潜伏生活や政治家としての言動、そして失踪に至るまでの経緯や死生観を丹念に検証し、数々の新証言・新事実をもとに辻政信の実像に迫っていく。
謎の失踪から60年――。毀誉褒貶の激しい作戦参謀の“正体”が明かされる。
辻正信氏は戦時中に活躍し、作戦の達人として称賛される一方で、批判も多かった人物です。
彼は無謀な作戦を行い、多くの犠牲者を出したり、部下に自殺を迫ったりしたことや、
シンガポールで数千人の華僑を虐殺したと言われています。
昭和時代の歴史を扱った作家たちからは、彼に対する評判はよくありません。
戦後、この人物は突然姿を消し、アジア各国に潜伏して戦犯としての追及を逃れました。
逃亡に関しても評判はよくないですが、
海外で潜伏し、日本に密かに戻ってくるまでの体力と精神力、気力は非常にすごいものを感じます。（自分には絶対できないと思う）
彼は復帰後、国会議員となり、最後は出張先の東南アジアで行方不明になり、亡くなったとされています。
本書を読んで私の印象は変わりました。
彼は貧しい家庭で生まれ、努力して軍人になった人物であり、真面目でまっすぐな人だったことがよく分かりました。
私欲や権力欲で動く人物でないことも明らかです。
政治家としては人気はあったものの、政治家としては成功することはなかったようです。
マレー作戦を指揮した山下奉文大将は、彼について「協調性に賭け、自我が強烈で、将来、中央部の要職には絶対に充用してはいけない」と評していました。
かなり嫌われていますね。。
一方、何かを成し遂げる人には、強い自我がエネルギーになっている人も多い気もします。
人間には、「絶対善」の人も「絶対悪」の人もいなく、見方によって変わることがあるのではないでしょうか。
本書を読んで興味深い人物だと思いました。おすすめです。
